簡易課税制度を選べば消費税の負担が軽くなる?!

税理士コラム_簡易課税制度
消費税の納税額の計算方法には、2種類の方法があります。
1つ目
仮受消費税から仮払消費税を差し引いて差額を納付する方法です。こちらが原則的な計算方法です。
2つ目
一定の割合を用いて納税額を計算する「簡易課税制度」です。
どのような場合に簡易課税制度を利用できるのか、また、どのような場合に簡易課税制度を利用した方がお得なのか、ご紹介します。

原則的な計算方法

課税売上にかかる仮受消費税額から、課税仕入にかかる仮払消費税額(課税売上割合を加味)を差し引いて納税額を計算します。「赤字の場合は消費税を納税する必要はないのでは?」と思われるかもしれませんが、実は赤字でも納税するケースが多いです。
その原因となる代表格が「給与」です(給与以外では、法定福利費や保険金、租税公課、寄附金、借入金利息、損害賠償金なども同様の取扱いになります。)。給与は消費税の課税対象とならない取引のため、課税仕入になりません。給与を除いた状態でも赤字であれば、払い過ぎた消費税を還付してもらえることになりますが、通常はそこまでの赤字にはならずに納税するケースが多いでしょう。
このように、「課税売上高-課税仕入高」がゼロ以上の場合は納税、ゼロ未満の場合は還付になるのが原則的な計算方法です。

簡易課税制度とは

例外的な計算方法である簡易課税制度をご紹介します。
簡易課税制度では、概算の仕入率を使って納税額を算定します。
みなし仕入率は業種によって異なり、具体的には以下の通りです。

第一種事業(卸売業):90%
第二種事業(小売業):80%
第三種事業(製造業等):70%
第四種事業(その他の事業):60%
第五種事業(サービス業、保険業等):50%
第六種事業(不動産業):40%

例えば、サービス業の場合、課税売上高に係る消費税額×50%が納税額となります。給与の比率が高い場合には、原則よりも簡易課税で申告した方が有利になるケースが多くなります。自社における課税仕入の割合を算出し、みなし仕入率と比較して、簡易課税の方が有利であれば簡易課税を選択した方が良いでしょう。

簡易課税制度を受けるための2つの条件

簡易課税制度は誰でも受けられる訳ではなく、2つの条件を満たす必要があります。
1つ目
基準期間(前々期)における課税売上高が5,000万円以下であることです。5,000万円超の場合は簡易課税制度を選択することができません。
2つ目
簡易課税の適用を受けようとする事業年度開始日の前日(=前事業年度の末日)までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することです。急に、「当期から受けます」ということはできません。事前に申請しておく必要があるのです。

簡易課税制度の2つの注意点

税額を安くできるお得な制度ですが、2つの注意点があります。
1つ目
「簡易課税を選択したら2年間は簡易課税を続けなければならない」という点です。「今年は簡易課税にして、来年は原則にしよう」と自由に変えることはできません。そのため、有利不利の判断にあたっては、将来の損益や設備投資予定を加味して試算することが大切です。
2つ目
「必ず納税になる」ということです。課税売上高に対してみなし仕入率を乗じて納税額を計算する仕組ですので、還付を受けることはできません。例えば、設備投資をした場合などは多額の課税仕入が生じますが、簡易課税では課税仕入を考慮することができません。そのため、大きな設備投資をする場合には、簡易課税の適用を受けない方が良い可能性が高くなりますので、注意が必要です。

簡易課税制度のやめ方

簡易課税制度の適用をやめようとする事業年度開始日の前日(=前事業年度の末日)までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出する必要があります。簡易課税制度を始めるときもやめるときも、「前事業年度の末日」が提出期限になりますので、期末を迎える前に確認することをお勧めします。

期末を迎える前に試算すべし

期末を迎える前に、将来2期分の損益の状況や、設備投資計画も勘案して、原則が有利か、簡易課税制度が有利かを判定するようにしましょう。面倒な作業かもしれませんが、納税の負担を減らすためには大切な作業です。日々の業務が忙しくて有利不利判定を行っていなかったり、そもそも簡易課税制度を知らなかったりして、多めに納税しているケースは意外に多いのです。税務署は納税額が多い方が嬉しいのですから、「簡易課税制度の方が有利ですよ」などというアドバイスはしてくれません。具体的な税額の試算にあたっては、各勘定科目の消費税の区分を確認する必要がありますし、複数税率になった影響で計算方法が以前に比べると複雑になっています。ご自身で計算することが難しければ、弊事務所へご相談ください。